[書き物][さぼり]

shibuku2006-05-01



「ねえ、正樹、みやのこと送っててあげてよ」
私にとって、6回目の塾の授業が終わるといきなり千奈美
大柄な男の子に声をかけた。

「あ?」
水原正樹君。
今年から同じクラスで、私はあまりしゃべったことはない。
「もう、千奈美ってば、いいって言ってるじゃない!!!」
この言い出したら、聞かない千奈美になんとか抵抗を試みる。
「いいわけないじゃない。ここらへん最近変質者が出るんだよ。先生も言ってたじゃん。」
春になるとそういう人が増えるそうで
実際先月、うちらの学校の子が被害にあったと先生が言ってた。
怪我したとかそんなんじゃなくて、その、コートの下が全裸っていう
精神的に苦痛を与えてくるパターンらしい。
たはは・・・・(汗
それで怖いね〜みたいな話を塾にいく道すがら
千奈美たちと話してた。
千奈美とは今年初めて同じクラスになったけど初日から
意気投合して、すぐ仲良くなった。
普段、打ち解けるまで時間がかかる私としては、初めての経験。
元気よく、ポンポン話す千奈美に合わせて、短い時間なのに
だいぶお互いのことを理解できたんだよね。
この塾も千奈美の紹介で、入ったし。
ちょうど親にもそろそろ塾に行ったらと言われてたので、即決だった。
塾には、同じクラスの子も結構いたので、いろいろと好都合だったし。

「だから、自転車で7分08秒でいけるんだから大丈夫だって」
私は、いきなりの展開に(千奈美といるといつもこんな感じだけど)
少々焦りながら、なんとか断ろうとしていた。
「・・・・みや、あんた家までの時間計ってるの?」
その場がちょっと静かになった。
「え?みんなやらない?」
熊井ちゃんに同意を求めてみる。
「さすがにそこまでは(苦笑)」

ちょっと凹んだ。

「本当は私が送ってってあげたいんだけど、家反対方向だし。
ね?正樹、いいでしょ?あんたここから家近いしさ」
千奈美は演技をするように大仰に話してる。
「うん、まあ。俺はいいけど・・・」
水原君は、そんな千奈美をよく知ってるのか
動じないでしゃべってる。
「水原君いいってば。ほんっと大丈夫だから」
私はこの本人の了解なしで、どんどん進んでいく話の流れをなんとか止めようと
水原君に声をかけた。
「夏焼のうちって、タバコ屋の近くだっけ?」
ちょっと考えるような感じで、ぼそっと言う水原君。
「うん、そうだけど」
ちょっと素にもどる私。
「だったら、別にかまわないよ。そんなに変わらんし」

ドキッ

水原君は微笑みながら、私に言う。
なに?今の・・・・
「やったー!じゃあ頼むね!」
「もう!なんで千奈美が喜ぶわけ?」
「いいじゃない。送ってってくれるって言うんだし。もう、雅になにかあったらとおもうと心配で心配で」
千奈美は、私の顔に両手をやりながらおおげさに言う。
「もう、おせっかい」
私は、いつものようにつぶやいた。
「じゃあ、正樹頼んだよ」
千奈美は、それにはまったく意に介さずバイバイと手を振って
駆けていく。
「おう」
それに水原君は手を上げて応える。
「もう・・・」
私は、ちょっとむくれた顔をしたけど
水原君にそれを見られてちょっと恥ずかしくなって目を伏せた。
「あ、俺自転車あっちなんだけど、夏焼は?」
かばんをしょいながら水原君は私に尋ねた。
「えっと私は・・・あっあそこに」
まだ慣れてなくて、置き場所が定まってないので
目で少し探して、自転車のある場所を指差す。
「じゃあ、ちょっととってくるからそこで待ってて」
そういうと、自分の自転車をとりに歩き出す。
「ねえ、水原君。ほんと千奈美が言ったことなら気にしなくていいよ。一人で帰れるし。」
私は水原君の背中に言う。
「あ。一緒に歩くの嫌か?」
足を止めて、振り返りながら申し訳無さそうに言った。
「え!?いや、全然そういう意味じゃないよ。全然」
そんなこと本当に思ってなかったのでぶんぶん首を振る私。
水原君は私の様子を見て、ちょっと微笑んだ。
「まあ、でも実際ここ最近物騒だしな。確かにあいつおせっかいすぎるけど、夏焼のこと本当に心配してるのは間違いないからさ。じゃ、ちょっとだけ待ってて」
そういうと、さっさと行ってしまった。
「あ。」

う〜ん、困った。
私、男の子とあまりしゃべったことないから
何しゃべったらいいんだろう?
ぞくぞくと帰るほかの生徒の様子を見ながら
とりあえず自分の自転車のところに向かう。

「おまたせ。」
一分もかからず、水原君は来た。
「あ、ごめんね。」
私は、ほんと申し訳なくてもう一度謝った。
「別にかまわないよ。じゃあ、帰ろうか」
そういうと、水原君は私の前に自転車を進めた。
「うん」
なんとなくついていく私。

満月の夜の静かな夜だった。
寒くも、暑くもない穏やかな風が吹いている。
春がきたんだなって思える気持ちいい風。
閑静な住宅街という絵に描いたような街だから
20時すぎると、あまり人通りがなくなっちゃうんだよね。
ここら辺は、あまり塾の子がいないから
やっぱりこの時間一人で帰るのはちょっと怖くて
いつもチャリンコを飛ばして帰ってる。
2回目くらいから時間を計るようになって
自己記録を更新中だったりw

「・・・・」
「・・・・・」
う、気まずい。
なんかしゃべんないとやっぱりだめだよね。
えっと・・・
千奈美とは、幼馴染なんだっけ?」
結局共通の話題が千奈美しかなかったので、この話題しかないよね。
これが千奈美だったら、もっといろいろ出てくるんだろうなあ。
「あ?」
ちょっと先を行ってた水原君が振り返ってこちらを見る。
横顔がちょうど月に照らされて
なんか神秘的に見えてはっとしてしまった。
「あ、いやその仲、いいなって思って」
私はちょっとどきまぎしながら続ける。
「え?別に仲いいって訳じゃないけど」
ちょっと歩く速度を落として、私の横にきてくれた。
私はちょっと見上げる形になる。
「親同士が仲良くてさ。ちっちゃいころはよく遊んでたから」
「そうなんだ。」
どこを見ていいかわかんなかったから、自転車のハンドルを見る私。
「あいつ、うるさいだろ?」
ちょっとおどけた感じで言う。
「(笑)元気だよね」
そうとも言えず、無難に答える私。
ごめん、ちぃm(__)m
「ちっちゃいころからあんな感じでさ。よく振り回されてたよ」
ほんとまいったよみたいな顔をしながら水原君は言った。
「へえ〜(笑)」
なんかそれがすぐ想像がついて笑っちゃった。
お互い笑って、そのまま無言で歩いた。
こうやってしゃべるの初めてなのに、そんなに嫌じゃないなとちょっと不思議。

「夏焼んちってここらへんだろ?」
水原君は足をとめて言った。
「え!?あ、うん!あれだよ」
私はちょっとビックリしちゃって、大きな声で答えた。
水原君は、ちょっと驚いた感じで笑った。
う〜変な子に思われちゃうよ。
「あ、ママ」
ふと見ると、ママが立っていた。
「おかえり、雅」
「ただいま、ママ」
「あら、こちらは?」
ぺこっと水原君は頭を下げた。
「あ、同じクラスの水原君。送ってくれたの」
「あら本当。水原君?ありがとうね」
ぺこっと水原君はまた頭を下げた。
ちょっと顔が赤いみたい。
照れ屋さんなんだw
「ママは、どうしたの?」
「あ、ちょっとおしょうゆ買いに言ったら、あなたたちの話し声がしたから待ってたのよ。」
ママの手には、しょうゆの瓶が握られていた。
「ねえ、上がってお茶でも飲んでいきなさいよ」
水原君を見ながら、声をかける。
「あ、いや。俺はここで。」
水原君は、短く答えた。
「そ〜お」
ママは、とても残念そうに言う。
「じゃあ、夏焼またな」
「う、うん。ありがと」
「じゃあな」
「おやすみ〜」
水原君は、今来た道を戻ってたちこぎで帰っていった。
そのまま振り返らず脇の道に入っていった。

「み〜や〜び〜」
「ひゃっ!!!!」
「もう脅かさないでよ。びっくりするじゃない」
「何見とれてんのよ。」
そういうと、ママは(・∀・)ニヤニヤしてる。
「ち、違うよ!」
「あんたも隅におけないねえ」
とひじで私をつっついてきた。
こういうところは若いと思うw
「なにがよ」
私は、ちょっと離れた。
「この子ったら男の子に送らせるなんてwモテモテだねw」
口に手を当てて、ほくそ笑む。
「ち、違うってば!これは千奈美が勝手に」
「ふふっ何ムキになってんのよ」
「べ、別にムキになってなんかないよ!あーおなかすいた。今日のごはんなに?」
私は平静を装いながら、家に入った。
「(笑)ちゃんと用意できてるわよ。」
なんか見透かしたようにママは後ろから言った。

・・・・別になんともないんだから。


なんとも・・・。